■さてはじめてはみたものの、この旅の所在はかなり危ういのだ。というか、いけるの? いけないの? も決まらぬまま日程と目的地だけが決まっていた。さらに読み進むと次第にわかってくると思われるが、様々な抗えない力が働いたとはいえ、現地での我らの行動もなかなかに情けない。であるからして、この「青を見に行く」は、自転車旅情報としての役割はほぼ果たさない旅行記だということをおことわりしておくよ。記されることは、目的地を神津島とする、オヤジの戯れ絵日記。だ。
ところで、何故にオヤジが真夏の神津島へOLD SCHOOL BMXを伴って? という不思議はこのあたりから発生した。「BONZなやつら走る」。このBONZツーリングの時に「おー、なんじゃこりゃ! 調布から楽園行き飛行機が出とるやん」「乗りたい、乗りたい。乗りたい! 」「ドルニエ号! かっちょいい! 」「BONZを自転車で出発して1時間半以内には神津島についてんじゃん」「いこいこいこいこっ 」ってな事になっていたのだ。大島でも新島でも三宅島でもない理由は ” 神 ” にあやかりたいという気持ちが少しはある。それは残された時間がもう少ない、オヤジのいろいろ雑多なドリーミンなのである。そう、あれからの間、調布飛行場から「ドルニエ号に乗って神津島へ」という想いばかりがやけに育った。
ちなみにドルニエ号とはこれ。 こんな見た事もなかった乗り物に乗って、ここから、ここではない場所へ。すべてを置去りにして、ものの数十分で、まだ見ぬパラダイスへ………。この感じ、つまりオヤジはそれがやりたい。その実、早く着くのは近いからなんだけど、この ” 短時間で異世界 ” というところになんともいえないワープな感がある。それがいいのだ。
ところがこの旅は出発にいたる経緯が何とも多難であった。このままいつまでも旅立たない旅行記というわけにもいかないので詳しくは避ける。が、行く日は決めたのに航空チケットが手に入らない。チケットが手に入ったらこんどは宿が無い。まったくないんです。なので裏口方向から手を回して部屋を確保したら、飛行機に自転車が積めないという。そこを交渉したら「実は自転車は2台までね」なんだそうだ。
結局、出発日もそう遠くはない土曜日の午後「神津島、だめそうだから沖縄にでもする? 」なんて話しているときに、どこかの旅行会社が買い占めていたであろう神津島行き航空券は手に入った。3枚。参加希望いただいた方はもっといたのだけど3枚なのだ。ゴメンねそういうわけで先着順にてメンツは決まった。3人と2台の旅の始りである。
で、出発。
11年ぶりの輪行旅(自転車を袋に詰めて公共交通機関に乗り、行った先で自転車旅をする方法ね)に、前日からうきうき予行演習なんかまでやったのであるが手持ちの輪行袋4つはすべて使えず、当日は借り物輪行袋での出発だ。BMXは横長の輪行袋の方がいいみたい。 そして某月某日。真夏。輪行袋を肩にかけ、調布飛行場から旅立つ我らは、韋駄天(BMXの比喩ね)を従え天翔る軍神・毘沙門天のような心持ちなのである(少し嘘)。
そうそう、目指す神津島ってこんな位置ね。
調布を飛び立つと、まーっすぐ海へ出てそのまま神津島へ。飛行機に乗っている時間が僅か45分
で、ここ!! に着いちゃう!
のでありますが………….ドルニエ号は飛ばないんですね。
どうしてって、台風5号が東京南の海上にあるから。
東京はそこそこ太陽が出て、ときおりピューッ、と風が吹くくらいなんだけど、海上は風速30メートルなんだそうだ。寝たり起きたりアイスを食べたりトマト・ジュースを飲んだりしている向こうの搭乗カウンターでは、プロの飛行関係者の方々がわりとすったもんだしております。
ハっハハハっ。
でもね。やっと見ることができましたよ。神津島行き航空券。これがAM8:45発、NC301便のチケット with 荷物超過分料金レシートです。
んで、(約)午前8時30分、301便ドルニエ号はそろりと我らが目の前に姿を現した。ちょっと感激なのである。案内係のおじさんが「はーい。神津島行きご利用の方は2列に並んで順番を守って進んでくださーい。」というので、いちばん乗りで搭乗してやろうと願う我々は、静かに隊列先頭をキープ
して、
意気揚々と搭乗しようとするのだけど、
「はい、名前を呼びますんで、その順番で乗ってください」と、あっけなくいちばん乗りを阻止されてしまう。
でもいい。こんな小型バス程度の広さの飛行機に乗って旅立つことができるのだもの。そわそわドキドキなのである。
これが、ドルニエ号の脚、あれがドルニエ号の翼、それがドルニエ号のプロペラ…….。なんて観察していると、バホッ、バホッ、バラバラパラパラッっと双発が片側づつ回りだし、
調布スタジアム(だっけ?)をかすめて、
やや強引に、たいした助走もなくドルニエ号は離陸しました。
民家の軒先にお邪魔しつつ、
多磨霊園上空で旋回しながらど〜んと大きく下降。やはり風がかなりなのである。その荒れっぷりったらカラコルム探検隊の双発のごときすごさ。そこに写っている彼が墓場を眺めながら笑っているのは、実は恐怖にあんぐりと口を開き引きつっている顔。です。
荒れアレで調布の町上空を通過。
我が愛しの多摩川をながめてしばらくすると、
向こうには既に海が見える。高いところもジェット・コースターもスピードも大好きな方なんですけどね。この、ろくに高くもない高度ってのは中々にグッと来るです。揺れなければウハウハなんでしょうけど。
で、飛び立って10分もしないうちに、もう江ノ島の真上を通過です。ドルニエ号は「ひょっとして墜落する? 」という風情でエンジン音をたてていますよ。振返ると、わたしが座っているあたりと後ろの方の機体が異なる動きをしている。んじゃないかな。と思えました。
あれは初島です。海へ出たら、昨年だったか、相模湾辺りでオルカの群れが観測されたよねえ。なんてよぎります。
どうしてもついつい写してしまう富士山は、これまで見た事がないようなアングルで眺める事ができますのでやはりついつい写してしまいます。
そしてドルニエ号から眺めると、巨大タンカーはそれなりに巨大です。何だか青さが増してきたぞ、なんて思っていると、
雲によりそう虹を発見。
大島のへりを眺めて
泡立つ海に台風のパワーを見せつけられます。
青く青い眼下に魅せられていると
もう、神津島。飛び立ってからここまで20分くらいじゃなかろうか?
で、あれが着陸点なんですがね。
風が…凄いんです。
滑走路に対して50度、地面に対して60度くらいの進入角度でドルニエ号は着陸しました。「まぢか」でした。
でも地に足がついてしまえば、
ちょっと強気。
世界がまぶしいなあ。くっきりしてるなあ。なんて言い出します。風はピューピューだけど、雨じゃなくてよかったなあ。なひととき。
そしてこのゲートの向こうには、神津島という約2年越しの異世界が広がっている。
自転車を受け取って。
お迎えいただいた宿のお姉さまに荷物を預け。
輪行を解いて
自転車を組み上げます。
ちなみに我らの着陸アクションを見ていた宿のお姉さまは、その日の午後に予定されていた御子息の帰省を延期させたそう。島民でさえ避ける着陸を経験できて、ちょっと自慢なオヤジなんです。地に足がついていれば。
さあできた! 神津島IN OLD SCHOOL BMX !
ここから宿までのスプリント・ラン。お姉さまに「クルマに載せればいいのになんでわざわざ自転車で走るん? 」などと訝られながらも
走るんです。
韋駄天を得た毘沙門天ですから、
はじめのコーナーを曲がるまではね。
そうしてオヤジたちは、ルートのあんまりきつい上り坂にへこたれ、どこへ通づるかもわからない日陰の下り坂を下りはじめてしまいます。名物あしたば農家のおばちゃんや市役所の方々なんかに道を訊きつつ。下って、下って、
下って、下ると、
海!
ほら念願の、青い、懐かしい
海!!
え?
ま、それはともかく。
少し迷いながらも、宿がある神津島のメイン・ストリート近く
前浜に到着。
いやあ、自分の自転車と脚で巡りあう場面てなんて素敵なものでしょう。
今日は朝から既にちょっと達成しちゃったよなあ。
ん?
で、宿にもひとまず到着したし。
草履に履き替えて、足りなかったもう1台も補完した(レンタル・ママチャリね)し。いまはまだ午前中だし。今日はこれから何をやるかね?
「青を見に行く(3)」へ続く。
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