■さてさて、たまにはというか、久しぶりに技術的なお話。シマノのDXハブ&フリーのレストアというかオーバーホールです。
SHIMANO DXハブ、銘品ですね。mongooseの純正にして、この時代のMXハブとしては最高に滑らかで精度のある気持ちのいいレーシングハブで、ハブ部分とフリー部分が一体となったその造りはこの後のすべてのブランドの製品に影響を与えたものです。mongoose以外でもDGやHUTCHなど名だたるブランドのワークスで使われた事実がその秀逸さを物語っています。
↑ 見た目はこんな感じですね。ここにBENDIXのコースター・ブレーキ・ハブに使われるような一枚もののリヤ・スプロケット(フリー・ホイルではなく)をセットして使用するのがシマノDXハブのDXたるところ。それまでのフリー・ホイール仕様では、気軽に歯数の変更ができなかったところや、雨、埃、泥濘などによるフリー・ロックなどを一気に解消したのがこのDXハブだったんです。わたしなど、’70〜’80年代中期くらいまでは、走るたびに、あるいは雨の度に走行後フリー・ホイルをバラしてグリスアップしていましたから(BMXじゃなくても、雨のあとのフリー・ホイルのグリスアップは昔の自転車乗りの常識)、このハブの素晴らしさは何ものにもかえがたいものでしたよ(その後、フリーホイルはフリーホイルで防塵、防水性能を高めて今がある感じです)。
ところが、このDXハブ、その高性能故かオーバーホールの手だてがないんですね。メーカーからは中身のパーツは出てこないし、そもそもこのハブ、ハブをバラすための工具がないんです。まあ「壊れないよ」と云うほどの自信作だったのでしょう。
しかし、いくらメンテナンスフリーのDXハブでも、今や30年以上前の最先端。そりゃあ、数ある中には中身が錆びたり、ベアリングが割れたり、グリースが固まったりと不具合も出てこなくはない。そんなときは「何か別のハブに交換して…….」 いやいや。そんな時代を変えた銘品だからこそ、いつまでも「絶好調」で使いたい。
そこで、BONZ BROS.はシマノDXハブをオーバーホールするための工具を自分で作り、マッチングする交換部品を探してきましたね。
こんなやつです。
バラす前はこんな感じ。これはハブ・ベアリングを眺めたところ。
球押しとハブ・ベアリングを外すと、球受けが出現しますね。普通のハブだとこれですべてなのですが、DXハブの場合、この球受けの奥にフリー機構が潜んでいるんです。そこにこのロック・ナット式球受けを利用してフリー・ホイル機能を持たせている。そして、この球受けロックナットの部分をバラす工具が世の中に無いのですね。
作った工具はハブ部の球押しやベアリングを外したあと、こんなふうに組み込みます。さて、バラしますよ。DXハブ・オーナに捧ぐ、レストア/オーバーホール・レポートの始りです。
で、ボディや軸を痛めないように自作した専用工具でロックリングを緩めていきます。ちなみにこの部分、逆ネジです。フリー部分のロックナットはハブの球受けも兼ねているわけですから、歪みや傷などを作らないようゆっくりじんわり緩めます。
球受けというか、ロックナットというか、なヤツをそーっと開けると…….。
こんどはフリー部分の中身が現われます。直径一ミリにも満たないベアリングが25個、緻密に並んでますね。この緻密な感じ、DXハブを使っている人は分るよね?
さらにフリー胴体をハブから引き抜くと………胴体裏側にも同じベアリングがびっしりです。
これがシマノDXハブのフリー機構部分の本体ですね。
横から見るとこんな感じ。気品さえ感じてしまうほどのシンプルさです。
フリー部分をバラしていきます。球が一個張り付いていますね。気にしないでください。
フリーの駒を起こして…….
外します。これが無くなるとどうにもなりません。気をつけて。それにしてもこんなちっこい駒で人の脚力をすべて受け止めているんですねぇ。ちょっと感動します。人の脚力がちっぽけなものなのか? この部品の強度がものすごいのか? シマノの設計が素晴らしいのか?
クランクの正回転でフリーの駒を起こすスプリングがこれ。最重要部品であるにもかかわらずこの繊細さです。
これは球受けとフリー部分の間に挟まっているシムですね。DXハブの場合、これも重要部品。厚さが0.1ミリくらいのものから数種類あり、このシムを組み合わせることでフリー部の胴体を「なんとなく」フローティング・マウントする感じになっています。このシム数、個々のハブによって個体差があり10枚近く入っているものもあれば4枚くらいのものもある。ってことは、ひとつひとつのハブのこの部分のシム枚数を、人による手作業によって決めていたんじゃないかな。「よし、これは0.1を1枚に0.3を4枚! 」てな感じ。ジャパニーズ・クォリティですな。そういうわけで無くさないように。
片側のハブベアリングを入れわすれていますが、これがシマノDXハブの中身です。左上から右へハブ・ベアリングが片側8個で計16個、フリーの駒が2個、フリー用ベアリングが表側用25個、裏側用25個の計50個。左下シム4枚、駒を起こすためのスプリング1個、球受け兼フリーのロックナット1個、フリー胴体1個。赤い↑で示した部分が今回交換するパーツです。苦労して見つけた新品です。
で、新しいパーツに新しいグリースを馴染ませたら、さっきとは逆の手順で組んでいきます。したがって「逆の手順で組みましょう」で組みの行程は無しでもいいのでしょうが、まあ写真の枚数制限があるわけではないから組む方もやります。ちなみにハブ・グリースはハブ専用のグリースで組むのが当たり前です。←ここ、重要です。ちなみにBONZ の場合、このグリースが普通の800倍という価格の贅沢グリースでやってます。いいものを使うと脚と心が喜びます。無論、自転車もね。
ピンセットのようなものを使って、スプリングでフリーの駒を固定します。スプリングはフリーの動きの要ですから力をかけすぎて伸ばしてしまったり、あるいは折ってしまったりしないように。慎重に作業ですね。息を止め「えぃやっ」と瞬間的にはめ込みますよ。
こんな感じで駒が、ぴんっと勢いあるのがいいですね。「ぴんっ」具合で、その後の豊かなフリー・ホイル・ライフが想像できるというものです。
右がフリー胴体裏側のラチェット溝です。ここに駒が噛みあって前進するときはロック、脚を止めると「チー」と鳴るわけです。
その溝の上の僅かな球受けにフリー裏側用ベアリングを並べていきます。球が小さく数が多いのでピンセットなどがいいでしょう。
組み込みです。
つまらない写真ですが重要なところです。ピンセットで駒の「ぴんっ」を押さえつつ、一気に息を止めて「はぅっ」という感じに入れ込みます。
はい、フリー・ホイルのラチェット機構が組み上がりました。駒がいい感じに勢いがあるでしょ?
表側もベアリングを並べていきます。ここまでくればひと安心ですが、まだまだ気を抜くのは早いですよ。何せこの球の大きさですからね。
シムをいれて………球受けのような、ロックナットのような球受けを締め込みますね。締め込む前に、全体に面一に力がかかるように圧をかけてから、そっと締め込んでいくのがコツです。このシム、面方向以外の力には弱いですから。
最後に専用工具で締め込みますが、けっこうカッチリ締め込みます。
はい、完成。
新品のように見た目はキレイじゃないけれど、使い込んだ部品をさらに修繕して使い込む。いいね。これぞ日本人、と思いきや、最近ではアメリカ人とかの方がこういうことをやるんだよね。彼らは「その行為自体」を楽しむ。ちょっと見習いたいよなあ。
今回はフリー部分の治療をメインに行ったけれど、BONZが行うハブ・チューンナップもなかなかのもの。昔ながらのボールベアリング式のハブでも、いちど回転を与えれば40分くらいまわり続けるような仕様に作り込むこともできるよ。レース屋だからね。興味のある人はお問いあわせ下さい。もちろんDXハブ以外のものでもなんでもOK。さらにはBBやヘッドもね。
そういうわけで、この後ハブ部のチューンナップをして元の状態よりも素晴らしい性能を手に入れたシマノDXハブは、30年来のオーナーの元へ帰っていきました。次のオーバーホールは2043年頃かな? 生きていたいものです。笑
そうそう、作業記事のなかで分らないことや気になることがあれば遠慮せず聞いてください。また、シマノDXではない普通のフリーやハブのオーバーホールやなんかについても、ネジピッチやベアリング・サイズの差はあれ構造自体は似た様なものです。そこいらへんについても何かあればどうぞ。
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