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Jul 03 2018

きょうの眺め(225). OLD BMX SPECIALITY, BONZ BROS.

zinnzya◾️暑いなか、何度も何度も店の前を通る老人がいた。歩みもおぼつかないので声をかける。「じいちゃん、どうした? 迷ってるの? 」逃げようとする。「大丈夫だよ。暑いからお茶でも飲んでいきな」店に招き入れる。汗びっしょりである。手ぶらだ。「道がわからなくなっちゃったの? どこ行くの? 」「小田原へ」「え? 歩いて小田原? どっから来たの? 」頷きながら「代田橋から」「ずいぶん歩いたねえ。小田原はなんで? 小田原ならそこから電車に乗ればそんなに遠くないよ」頷くだけである。話を聞いてみると、どうやら自分が10代の頃のことしか話さないのであった。「じいちゃんいまいくつなの? 」「6月3日で19になりました」あらら、そういうことか。うちの店は大抵いつもすぐ近くに警官が立っているので、扉をあけて「痴呆気味かもなじいちゃんが今うちにいるんだけど、どうしよ? 」と言ってみた。「あー、いま行きますよ。身元とか聞きました? 」「いちおう名前と電話番号は言ったけどあてにならないかもね」「どうもどうも」。
 この間にじいちゃんは逃走したのである。警官はすぐに持ち場を離れられないというので、私がじいちゃんの行きそうな方向へ走る「連絡するから家族に電話してみといて」と言い捨てて。
 結局、じいちゃんはわりと正確に小田原方面に向かって歩いていて、多摩川の橋の中途にいた。警官に電話。聞くと、管轄から出てしまったから迎えに行けないという。顔なじみの警官がそういうのだからそうなのでしょう。しかし、わたしはどうするか? そのような問題が残るのである。じいちゃんが歩みを止めることはない。ずんずん、ずんずん。小田原に向けて歩いて行く。「ご家族にわたしの携帯番号を伝えて、電話をいただけるように言ってくれないかな。任意でいいから」そしてじいちゃんとわたしは小田原に向かって歩いて行くのである。ハハハ、困ったなあ。
 じいちゃんとわたしは、再びぽつらぽつらと話し始めた。どうやらじいちゃんは小田原生まれの菓子職人らしくて、これから鹿島さん(?)の祭りにいかなきゃらしい。彼女と………..。

 何だかそれを知った瞬間、じいちゃんを小田原に行かせてやりたいな、と思ってしまった。だって、この人は本気で、いまから19歳の彼女に会いに行くのですよ。これまで迫り来る老域を浮かべて、自分は「ボケるのは嫌だなあ(色々な関係各位な方、気に障ったらごめんなさい)。ならばスコッと逝きたい」なんてぼんやり思っていたけれど「あれれ? ボケるのも悪くないぞ」なんて思ってしまった。だってそこにはリアルな19歳の彼がいるのだもの。彼にとってそれは今。現実が19歳なのだ。

 家族からの電話が鳴った。奥さんだ。今から車で迎えにくるという。携帯で連絡を取り合って、こちらもこのまま移動しつつどこかで落ち合うことになる。
 じいちゃんは19歳として扱うと色々なことを話してくれた。だってそれが現実だから。そして歩いて行く。暑いから少し休もうということになり、川崎に入ってしばらく歩いたところの神社の境内で19歳のじいちゃんと並んでアイスを食べた。夏の日は暑くて空が青くて風が吹いていた。なにかとても分厚いものを感じた。

 そこで奥さんのお迎え。息子のお嫁さん運転で駆けつけた。じいちゃん、73歳だって。わたしと驚くほどは変わらないじゃん。と、思った。
 じいちゃんは奥さんが視界に入ったとたん「あ」と、言った。「◯◯さんほら帰るよ」。「はぁ」と声に出して言うようなため息をつくと、その人は首を傾げながら大人しく車の後部座席に座った。店まで送ると言われたが、わたしは独りで神社に残った。暑いなあ。「でも、それって悪くないかも」と呟いた。今年初めて蝉の声を聴いた。学校帰りの高校生が自転車でわたしの前を通り過ぎる。そしてその華やぎが遠くなる。立ち上がって、自転車には乗らないで、店に向かって歩き始めた。じいちゃん、小田原にいかせてやりたかったな。悪いことしたな。「でも、悪くないかも」あの人はいま、遥かに長い時を遡って、自分がいちばん居たい時の中にいるのだ。でも行かせてやりたかったな……..。神社の境内がひっそりと色を濃くした。そのような きょうの眺め .

 

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