◾️合挽きのひき肉を1キログラム購入し、スクーターに乗って実家に帰宅すると知らない母が微笑んでそれを受け取った。母は玄関から続く長い廊下を歩き、調理場の冷蔵庫にひき肉を収納する。
「夕ごはん、なに作ろうかね」なんて話していると玄関ブザーが鳴った。扉ををけたたましく叩く誰かがいる。警察だ。ドアを開けるとなだれ込むようにして彼らは侵入してきた。圧のある声と靴の音。捜査令状を掲げている。明るい陽光が眩しい。聞けば我らにはひき肉取締法違反の疑いがかけられているという。「ちょっ、ひき肉ってなんですかそれ」「おとなしくしていてっ。あんたかなりまずいよ。心当たりがあればいまのうちに正直に申告した方がいい」。「いやいやいや、ひき肉は今そこにあるだけですけど」といってわたしはいま買ってきたひき肉を指差すのだが、捜査官たちは冷蔵庫の中はもちろん、流しの下や、床下収納、キャビネット、オーブンの中……果ては床板まではがし始めるのだ。
どうやらひき肉所持というのはなかなかに厄介な罪がとわれるらしい。なんだよそれ。まあでも、とわれる罪は合挽きひき肉1キロ分の罪なはず。それってどうなのよ? なんて考えていると「確認! 確認!」と声がして、隣のパントリーに入っていた捜査官が冷凍庫からごっそりと大きな包みを取り出した。「……」。冷凍ひき肉は次から次へと取り出されてくる。「まずい」という思いと「なんでよ」という意識が交差する刹那。振り返ると隣接する廊下の向こうの部屋は風呂場になっていて、そこには近所のおじいちゃんやらおばあちゃんやら6人ほどが湯に浸かりながら談笑中なのだ。窓の外は富士山だ。浴室には外階段がついていて外に出ると玉石が敷きつめられた広大な庭。そこには熱い湯の川が流れていて、わたしはその流れに流されて古い洋館の廃墟に辿り着く。
そんな夢を見た。
あれはなんだったのか? 夢なんてそんなものと言ってしまえばそれまでだけれど、そこには幾許かの熱がある。知らない実家、知らない母、知らない罪、知らない近所の人、知らない庭……どうして?
その熱を解放したくて、夕方、BMXに乗って河原へ来た。首元を流れる風が籠もった何かを追い出していく。気持ちいいなあ。川面は柔らかく艶いて更紗のよう。そうだ、旅に出なくちゃ。そんなことを思った。それを浮かべたとたん、妙な悪夢は霧となってどこかへ昇っていった。そんな きょうの眺め .
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